【前編】クリーンラベルの最前線へ――着色料も香料も「引き算」したオーガニックキャンディーの挑戦
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はじめに:オフィスに舞い込んだ、時代の変わり目を告げるニュース
いつも私たちの活動を温かく応援いただき、本当にありがとうございます。地方の小さなキャンディーメーカーである私たちが、日々「飴」という存在に向き合い、職人たちと汗を流しながらものづくりを続けていられるのは、ひとえに私たちの志に共感し、商品を手に取ってくださる皆様のおかげです。心から感謝申し上げます。
さて、本日はいつも応援してくださっている皆様へ、胸が熱くなるような素晴らしいご報告からブログを始めたいと思います。
先週、私たちの名古屋のオフィスに、身の引き締まるような、そして心の底から武者震いがするような大変嬉しいニュースが同時に飛び込んできました。現在、まさに具体的な条件や、安全かつ確実にお届けするための物流の仕組みを詰めている段階であるため、大変恐縮ながら現時点で具体的な固有名詞を出すことは差し控えさせていただきますが、日本の流通・食文化を牽引する素晴らしい2つの巨大なプラットフォームから、同時に私たちのオーガニックキャンディーの取扱要請をいただいたのです。
ひとつは、都市型の洗練されたライフスタイルを提案し、オーガニックやナチュラルなこだわり商品を全国の生活者へ発信し続けている、日本屈指の有名コンビニチェーン様。
そしてもうひとつは、日本の家庭に「安心・安全な食卓」を届けるサブスクリプションサービスの草分けであり、最大手の有機野菜・自然食品宅配サービス様です。
すでに私たちのフラッグシップ商品である「CanWe?(キャンウィー)」は、フランス発の先駆的なオーガニック専門スーパーマーケット(Bio c' Bon)様の全店において日常的に取り扱っていただいており、本物志向の感度の高いお客様から非常に温かい支持とリピートをいただいています。しかし、今回の新たな2社様からのオファーは、私たちがこれまで15年間、泥臭く蒔き続けてきた「飴を通じたコミュニケーション」という種が、一部のオーガニックファンというニッチな領域をいよいよ超えて、日本の主流のライフスタイル、つまり誰もが立ち寄る日常の風景へと溶け込み始める決定的な地殻変動が起きていることを強く予感させるものでした。

「なぜ今、ナカムラの作る、この小さな飴玉一粒が、これほどまでに日本の流通のプロフェッショナルたちに激しく求められているのか?」
その答えを紐解くためには、今、世界の食品業界を揺るがしている「ある巨大なニュース」と、私たちが創業以来こだわり続けてきた「引き算の思想」、そしてこれからの時代に不可欠となる「クリーンラベル」の真実について、詳しくお話しする必要があります。
今回は、社長ブログとして前後編の2回に分け、非常に長くなりますが、世界最大の食品メーカーが下した衝撃の決断の背景を私なりに分析し、それに対して私たちがどのような思想と技術で先回りしてきたのか、そのすべてを熱量をもってお伝えしたいと思います。一編のドキュメンタリーを読むように(笑)、お付き合いいただければ幸いです。
第1章:【大転換の時代】世界最大手ネスレが下した「合成着色料完全廃止」の衝撃と戦略分析
1. 業界のルールが書き換わった瞬間
食品・菓子業界に関わるすべての人間、いや、現代を生きる地球上のすべての消費者にとって、歴史的なターニングポイントとなる事件が起きました。
世界最大の食品・飲料メーカーであるスイスのネスレ(Nestlé)が、「全世界で販売する同社の全製品において、合成着色料の使用を完全に停止する」という驚くべき経営方針を進めています。
このニュースを初めて耳にしたとき、私は鳥肌が立つような衝撃を受けると同時に、「ついに、私たちが信じてきた時代が、これほどまでの巨大なスケールで現実になったか」と、深い感慨を覚えずにはいられませんでした。
今回のネスレの決断がなぜ「食の革命」と呼ばれるのか。それは、一部の欧州市場だけとか、特定のオーガニック向けブランドだけといった限定的な話ではないからです。彼らが保有する、世界中の天文学的な数の製品群、精度高く張り巡らされた巨大なグローバル・サプライチェーンのすべてから、合成着色料を「完全に排除する」というのです。これは、20世紀から続いてきた近代食品工業の歴史を真っ向から塗り替える、凄まじい規模のルール変更です。

2. 20世紀型「工業化食品」との決別
これまでの100年間、近代の食品産業が追い求めてきたのは「効率・コスト・見た目の華やかさ・均一性」でした。安価で、熱や光に強く、どれだけ時間が経っても色落ちせず、一瞬で消費者の目を引く鮮やかな発色を可能にする「合成着色料(人工着色料)」は、食品を「大量生産の工業製品」として世界中に流通させるための最強のツールであり、大前提のインフラだったと言えます。
しかし、現代の消費者の美意識とウェルネスに対する価値観は、私たちが想像する以上のスピードで進化を遂げています。
日常の買い物において、私たちはかつてのように「色が鮮やかだから美味しそう」「安いからこれでいい」という直感や本能だけでモノを選ばなくなりました。パッケージをひっくり返し、原材料ラベルの裏側をじっと見つめ、「この色は、一体何で作られているのか?」「子供の体にどんな影響があるのか?」という、知的な疑念と企業への誠実さを求める確かな目を持つようになったのです。
人工的に作られた、不自然なほどの「美しさ」や「鮮やかさ」に対して、消費者が本能的な違和感や拒絶感を抱き始めている。ネスレのこの大改革の背景にあるのは、「添加物に対する消費者の目が世界的に厳しくなっていることに対応するため」という、極めてシンプルかつ切実な、ブランド防衛のための経営判断です。
3. ネスレの戦略における「圧倒的な妥当性」
経営分析の観点から見ても、ネスレのこの戦略は極めて合理的であり、非の打ち所がないほど妥当性が高いものです。理由は主に3つあります。
第一に、「クリーンラベル」によるブランド価値の最大化とプレミアム化です。現代において、企業の資産価値は「安さ」ではなく、消費者の「透明性への要請」にどれだけ誠実に応えられるかで決まります。原材料を誰もが直感的に理解できるシンプルなものにする「クリーンラベル」の追求は、競合との差別化だけでなく、ブランドが将来的に受けるかもしれない「添加物の健康リスクに対する批判」を未然に防ぐ、強力な防衛策になります。さらに、安心・安全という絶対的な付加価値を担保することで、安売り競争から脱却し、適正な価格転嫁を行いやすくなります。
第二に、グローバル・サプライチェーンの統一による長期的コストの削減です。実は、食品添加物に対する規制は、欧州(EU)、米国、日本、アジア諸国など、地域によってバラバラです。地域ごとに「ここは合成着色料OKだから使う」「ここは厳しいから天然にする」とレシピや製造ラインを作り分けることは、巨大グローバル企業にとって物流の複雑化と管理コストの爆発的な増大を意味します。世界で最も厳しい基準に全製品を一気に対象統一した方が、中長期的な製造・流通・ガバナンスの総コストは劇的に下がります。
第三に、原材料(天然色素)市場における圧倒的な主導権の確保です。世界最大の買い手であるネスレが「天然由来の代替素材」へと一斉にシフトすれば、天然色素の生産・調達市場には爆発的な需要が生まれ、サプライヤー側の生産体制にスケールメリットが効くようになります。ネスレは調達の初期段階から世界中の優良なサプライヤーを囲い込むことで、天然由来原材料の価格安定化と供給ルートの独占的な主導権を握ることができます。

つまり、ネスレの決断は、単なる「環境や健康へのポーズ」などではなく、自らが世界の食の新しいインフラとルールを作り、競合他社をそのルールに従わせるための、極めて冷徹かつ高度な先行投資、経営戦略なのです。
第2章:他の菓子・食品メーカーの追従予測と、次に狙われる「香料」のブラックボックス
1. 日本国内市場に押し寄せる、二極化と「外圧」の波
このネスレの引き起こした地殻変動を受けて、他の菓子・食品メーカーはどのように動くでしょうか?私は、市場は「欧米のグローバルメーカー」と「日本国内のドメスティックメーカー」の間で、一時的に激しい二極化が起こると予測しています。
マースやモンデリーズ、ハーシーといった欧米の大手グローバルメーカーは、ヴィーガンやオーガニックの市場がすでに人々の生活に定着しているため、ネスレに遅れをとるまいと即座に追従し、合成着色料の排除を完了させるでしょう。
一方で、日本の多くの国内向け菓子メーカーは、技術的・コスト的なハードル、あるいは日本の流通特有の「1円単位の価格競争」や「一切の退色も許さない完璧な品質管理への要求」の高さから、すぐには完全追従できず、しばらくは静観するか、緩やかな移行にとどまらざるを得ないのが現実です。
しかし、その猶予も長くは続きません。なぜなら「外圧」が必ずやってくるからです。
ネスレのシフトによって世界の天然色素市場が拡大し、調達コストが下がっていけば、日本市場でも「合成着色料不使用」の商品が爆発的に増えていきます。そうなれば、日本の消費者の目もさらに厳しくなり、数年後には「合成着色料不使用」は特別なプレミアムではなく、「入っていないのが最低限の当たり前」というデファクトスタンダード(事実上の世界標準)へと変わります。輸出企業はもちろん、日本国内のインバウンド(訪日外国人)向けの商品においても、「合成着色料が入っている」というだけで、棚から排除される時代がすぐそこまで来ています。
2. 着色料の次にオミット(排除)されるのは「香料」である
そして、私が菓子メーカーの経営者として、最も重要視し、かつ確信を持っている予測をお話しします。
今回の「合成着色料の廃止」というドミノ倒しの次に、間違いなくオミットの対象、あるいは厳格な見直しのターゲットになるのは、味覚と嗅覚を人工的に支配してきた「香料」、特に「合成香料(人工香料)」です。
なぜ、香料が次の狙い撃ちにあうのか。それは、香料が現在のクリーンラベル運動において、最大の「ブラックボックス」だからです。

現在の日本の食品表示法(および世界の多くの基準)において、香料はどれだけ多くの化学物質や添加物をブレンドして調合していても、パッケージの原材料名には「香料」と一括して表示することが認められています。これはメーカーにとっては非常に便利なルールですが、消費者から見れば「その『香料』という二文字の中に、一体何十種類の石油由来成分や化学物質が隠されているのかが全く分からない」という、最も不透明で疑念を抱きやすいポイントになっているのです。
現在、欧米を中心に、健康リスクや肥満との因果関係が指摘されている「ウルトラプロセスフード(UPF=超加工食品)」への批判が急速に強まっています。ウルトラプロセスフードの定義の根幹にあるのは、「家庭の台所には絶対にない、人工的な味や香りを補うための添加物(=合成香料・人工調味料など)によって、本来の素材以上の美味しさを脳に錯覚させている食品」という点です。
世界の大手食品メーカーが、消費者の知的な透明性の要求に応え、真の意味で「ウルトラプロセスフードからの脱却」を証明しようとしたとき、この「香料のブラックボックス」にメスを入れることは、避けて通れない最終関門なのです。
3. 香料の引き算がもたらす、食品の「アイデンティティ危機」
しかし、香料のオミットは、着色料のオミット(合成から天然色素への移行)よりも、遥かに難易度が高く、食品メーカーにとっては自らのアイデンティティを揺るがす死活問題になります。
人間の知覚において、「色(視覚)」が変わっても、口に入れたときの味が同じであれば、消費者はある程度「健康のためなら」と納得し、情報の補正を行うことができます。しかし、「香り(嗅覚・味覚)」は美味しさそのものの脳内評価にダイレクトに直結しています。
コーラやチョコレート、イチゴ味のスナック、ミント系の菓子など、私たちが子供の頃から慣れ親しんでいるお菓子の「あの独特の美味しさ」の正体は、実は素材そのものの味ではなく、一滴の合成香料がもたらす強烈なフレーバーであるケースがほとんどです。これらを完全に排除して、100%天然由来にする、あるいは香料フリーにした結果、「昔ながらのあのパンチのある味がしなくなった」「なんだか物足りない」と、消費者が一気に離反してしまうリスクは、着色料の比ではありません。
つまり、これからの食品・菓子メーカーに求められるのは、単に着色料を天然に変えるといった「小手先の変更」ではありません。「不自然な香料に頼らず、素材本来の力強さと美味しさをどうやって引き出すか」という、レシピと製造技術の根底からの再構築なのです。
では、この巨大な時代の荒波に対して、私たち株式会社ナカムラは、どのような思想と職人の執念をもって先回りし、答えを出してきたのか・・・・
続く【後編】では、ネスレのさらに先を行く私たちの「引き算の技術」、そして今回オファーをくださった素晴らしいトップ流通の皆様と共に創り出す「食の未来のブランド戦略」のすべてを余すことなくお話しします。
(後編へ続く。近日中に更新しますので、ぜひ続けてご覧ください!)