大阪・関西万博「アースマーケット」で問い直す、“サステナビリティ”

社員研修で行った大阪万博で考えたこと。
はじめに――「売る」ことは、「問う」こと

万博とは、未来を先取りする「問いかけの場」だと思います。技術を見せるだけでなく、価値観を揺さぶり、行動を変えるきっかけを生む。特に2025年の大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」という壮大なテーマのもと、より生活者の心の中に入っていく必要があります。
この大阪・関西万博に行ってみて、「アースマーケット」というパビリオンは、未来の“食”についての問いを可視化し、地球環境と調和した食文化、持続可能な生産と流通、そして感性や記憶と結びつく「食の物語」を感じさせてくれる場だということを強く感じました。
しかし今、その一方で、弊社はギフトショップにキャンディーを納品している企業の立場にもいます。つまり、パビリオンが提示する「理想」と、ギフトショップという「現場」で販売される現実のはざまに立っているのです。
この立場から見えてきたのは、サステナビリティとは単なる規格や認証ではなく、「問いにどう向き合い、伝えていくか」という姿勢そのものである、ということでした。
「アースマーケット」が問いかける、“命をいただく”という行為

「アースマーケット」は、“地球”というスーパーマーケットを仮想的に可視化し、来場者が“買い物”という行為を通じてサステナブルな選択を疑似体験できる空間です。
感性で伝えるサステナビリティ
昆虫食や代替肉、アップサイクル野菜など、環境配慮型の食材を“ストーリーごと”味わえるように設計された展示は、知識よりも「気づき」を誘発します。「これって、本当に食べられるの?」「でも、美味しいかも」「私たちは何を食べ、何を見落としているのだろう?」
このような気づきを、説明パネルや映像ではなく、「食べる」という行為そのもので伝えるという点で、「アースマーケット」は万博の中でも特異なパビリオンです。
ギフトショップという“出口”で立ち止まる

そして、体験が終わったあとの出口、ギフトショップ。
私たちのようなキャンディー企業は、ここで訪問者が持ち帰る「思い出」の一部となる商品を提供しています。しかし、そのとき大阪・関西万博でアースマーケットを訪れたからこそ、こんな自問が始まります。
「このキャンディーは、“アースマーケット”の思想と矛盾していないか?」
「弊社が新たな核として開発したオーガニックキャンディーではない。CO₂削減認証もない。それでも、この商品に価値はあるのか?」
この“揺らぎ”は、企業にとって非常にリアルなものです。
認証がないからこそ、見えてくる“問いの本質”

私たちが万博のギフトショップに納品したキャンディーは、確かに有機認証を取得していません。原料は一般流通の砂糖と香料。日本の職人の手で1本1本丁寧に作られている。パッケージの印刷はもちろん、飴そのものもキャラクターの形をしています。

一見、それは「商業的な商品」に見えるかもしれません。
でも、よく考えてください。サステナビリティとは、本当は何によって判断できるものでしょうか?
私たちが考えたのは、「オーガニックではない商品にも、未来への関与の可能性があるのではないか?」ということでした。
万博という“正しさの祭典”における、商業のリアリティ
「アースマーケット」が提示する理想は、美しく、意義深いものです。しかし、そこに接続するギフトショップの現場では、「買ってもらう」「魅力を伝える」「リピーターをつくる」という、もっと現実的な営みが存在しています。
この間にある距離。
そこには、“問いの余白”があると考えます。
「完璧」ではなく「誠実」であること
私たちは完璧なサステナブル商品ではないかもしれない。けれど、だからこそ、どんな選択をしたのか、どんな課題を抱えているのかを正直に示す。
それが、「共感されるサステナビリティ」の第一歩なのではないかと思うのです。


「買う」という行為に、意味を宿らせる
ギフトショップで商品を手に取る数秒間。
それは、知識よりも直感が支配する世界です。
だからこそ、「あ、このキャンディー、なんだか気になるな」と思わせる“ストーリー性”が重要です。
私たちは次のような工夫を試みました。
- 「たった一本の棒付きキャンディーが、未来をちょっとだけ変えるかも」と感じさせる
- 万博の期間中、買われた方が、オンラインでキャンディーの“物語”を発信したくなるような美しさ
サステナビリティは、知識ではなく「気持ち」で共有されるもの。
その設計が、今後のギフト文化に求められると思います。
パビリオンの“正しさ”と、商品としての“魅力”の交差点
ギフトショップにおける最大のジレンマは、「環境にいいこと」より「かわいいこと」「話題になること」が優先されてしまうことです。
しかし、それを否定するのではなく、「じゃあ、“かわいい”サステナブルって何だろう?」という問いにシフトすればいいのではないか。
私たちはその問いを、キャンディーという小さな商品に託しています。
終わりに――万博が“矛盾”を許容する場所であるために
大阪・関西万博は、決して「正解を押しつける場」ではないはずです。
むしろ、「正しさとは何か?」を、それぞれの立場から考え続ける場であるべきです。
「アースマーケット」が描いた未来の食卓。
そこに私たちのキャンディーが並ぶことは、今のところないかもしれません。
でも、ギフトショップという“出口”で、ほんの一本でも、「未来にやさしい気づき」を残せたなら。
それは、私たちにとって十分すぎる「参加」だったのだと思います。
サステナビリティとは、競争ではなく、永くつづく対話。
その対話の途中や出口に、キャンディーという固いけれども、やわらかな存在があってもいいのではないか。
そう感じて大阪・関西万博を後にしました。