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「スポーツ経営」が面白そうだ

「スポーツ経営」が面白そうだ

プロスポーツはなぜ成立するのか。
勝率も在庫も保証できない商品(コンテンツ)に、何万人もの人がお金を払う。この「不条理な合理性」に、私は経営者として長年魅了されてきた。お菓子の企画販売会社として15を超えるプロチームと仕事をする中で気づいたのは、スポーツビジネスには企業経営のエッセンスがすべて詰まっているということだ。

私とプロスポーツの接点——15チームが語る市場の広さ

株式会社ナカムラはお菓子(飴)の企画・販売を主業とする名古屋の企業だ。
しかし振り返ると、これまでの取引先にはNPB・Jリーグ・Bリーグ・リーグワンにわたる15チームが名を連ねる。あらためて一覧化してみると、その多様性と愛知県への集中が浮かび上がる。

リーグチーム名本拠地本拠地
NPB中日ドラゴンズ名古屋市バンテリンドーム ナゴヤ
NPB横浜DeNAベイスターズ横浜市横浜スタジアム
Jリーグ名古屋グランパス豊田市ほか豊田スタジアム
Jリーグ横浜FC横浜市ニッパツ三ツ沢球技場
JリーグFC東京東京都味の素スタジアム
Jリーグファジアーノ岡山岡山市シティライトスタジアム
Jリーグ松本山雅FC松本市サンプロ アルウィン
Bリーグ横浜エクセレンス横浜市横浜文化体育館ほか
Bリーグ三遠ネオフェニックス豊橋市・浜松市豊橋市総合体育館
Bリーグシーホース三河刈谷市ほかウィングアリーナ刈谷
Bリーグ名古屋ダイヤモンドドルフィンズ名古屋市IGアリーナ
Bリーグアルバルク東京東京都有明コロシアムほか
Bリーグファイティングイーグルス名古屋名古屋市ドルフィンズアリーナ
Bリーグベルテックス静岡静岡市グランシップほか
Bリーグ熊本ヴォルターズ熊本市熊本県立総合体育館
リーグワントヨタヴェルブリッツ豊田市豊田スタジアムほか
【表1】パートナーチーム一覧

15チームのうち、中京圏に本拠を置くチームは実に8チームにのぼる。
弊社が名古屋に本社を置くことが最大の理由だが、それ以上に示唆的なのは「愛知県はプロスポーツを支えられるだけの経済基盤と人口密度を持つ」という事実だ。トヨタをはじめとする製造業の集積が生む法人スポンサーの厚みと、420万人を超える名古屋市の都市圏人口が、複数プロリーグが並立する環境を作り出している。

プロスポーツは「感情を売るビジネス」——普通の経営学が通用しない理由

MBAのフレームワークで企業を評価するとき、私たちは通常「商品の品質」「価格競争力」「供給安定性」「顧客満足度」を軸に置く。しかしプロスポーツに当てはめると、その前提がすべて崩れる。

経営要素一般消費財プロスポーツインパクト
商品品質の安定性製造管理で担保毎試合異なる・保証不可極めて高い不確実性
在庫管理計画生産が可能試合は消滅型・非在庫売り切り・補充不可
競合との差別化機能・価格・ブランド地域独占+感情的絆参入障壁が高い
顧客リテンションスイッチングコスト設計「応援文化」の世代継承LTVが極めて長い
価格決定権コスト+競合参照需要・体験価値で柔軟設定VIP席など高単価化余地
売上予測精度中〜高低(天候・順位依存)財務管理が難しい
【表2】一般消費財 vs. プロスポーツの経営比較

「商品」ではなく「感情」を売っている——
この一点が、プロスポーツを最も難しく、そして最も面白いビジネスにしている。

03|NPBの経営学——圧倒的ブランドは「習慣化」が作る

指標数値備考
NPB 年間総観客数(2023年)約2,600万人日本最大のプロスポーツリーグ
NPB球団数12球団1936年創設以来変わらず
中日ドラゴンズ年間観客数(コロナ前)約250万人東海地方最大のスポーツブランド
中日ドラゴンズの歴史1936年創設(88年以上)3世代にわたるファン継承
【表3】NPB主要KPI
リーグ年間総観客数(推計)球団・クラブ数NPB
NPB(プロ野球)約2,600万人12球団100%
Jリーグ(J1〜J3合計)約900万人60クラブ超約35%
Bリーグ(B1・B2合計)約380万人40クラブ超約15%
ジャパンラグビー リーグワン約70万人24チーム約3%
【表4】主要プロスポーツリーグ 年間総観客数の比較

日本プロ野球(NPB)は圧倒的王者だ。12球団が年間約2,600万人の観客を集める規模は、Jリーグ全体の約3倍に相当する。中日ドラゴンズがコロナ禍前に記録してきた年間250万人規模の動員は、「チームの強さ」ではなく「応援文化の継承」によって支えられてきた。

▶︎ 経営者の視点:NPBから学ぶブランド構築
NPBの強みは「習慣化によるLTV最大化」にある。一度ロイヤルカスタマーになった顧客は成績に関わらず離れにくく、次世代へ継承される。これは製品やサービスを「生活の一部」にできた企業が持つ最強の堀(Moat)と同じ構造だ。B2Cビジネスにおいて、単なる顧客満足を超えた「習慣・文化・記憶への組み込み」が競争優位の本質であることを、野球は100年かけて証明している。

04Jリーグが残した功績と構造的課題——「理念と経営」のトレードオフ

1993年、Jリーグ創設は日本のスポーツビジネスに革命をもたらした。「地域密着」というキャッチフレーズは単なるマーケティングコピーではなく、欧州サッカークラブの文化的価値を日本に移植しようとする哲学だった。

カテゴリ内容経営への示唆
強み地域密着ブランド・欧州との連携・育成システム地域No.1戦略(LBP)が機能。地域でのシェア・オブ・マインドを最大化
機会インバウンド需要・海外放映権・スタジアム再開発コンテンツ輸出と空間価値向上で収益多角化の余地
弱みスタジアム老朽化・公共施設依存・収益規模の小ささ固定費構造の脆弱性。EBITDA最大化より理念優先の意思決定が続きやすい
脅威NPBとの動員格差・Bリーグの台頭・人口減少コア顧客層の高齢化と新規ファン獲得コストの増大
【表5】JリーグのSWOT分析(経営視点)

MBA的に見るとき、Jリーグには「理念と経営のバランス」という根本的課題がある。スタジアム問題がその象徴だ。自治体所有の公共施設に依存するビジネスモデルは、設備投資の意思決定を民間の論理で行えないことを意味する。理念は会社の根幹だが、理念だけでは持続できない。利益も理念も——この両立こそが企業経営の核心だ。

05|Bリーグが問う「経営革命」——スポーツを最初からビジネスとして設計する

私が現在最も注目しているのがBリーグ(B.LEAGUE)だ。2016年の創設から10年目を迎えるが、その経営哲学はNPBともJリーグとも根本的に異なる

シーズン年間総観客数(推計)主な出来事
2016-17(創設)約230万人B.LEAGUE創設。JBL・NBLを統合
2017-18約280万人前年比+22%。認知度急上昇
2018-19約350万人コロナ前ピーク。アリーナ演出が充実
2019-20約210万人コロナ禍により途中打ち切り
2020-21約30万人無観客・制限開催
2021-22約120万人制限緩和により回復基調
2022-23約360万人コロナ前水準を超える大幅回復
2023-24約400万人(推計)IGアリーナ(名古屋)開場など新アリーナ効果
表6】Bリーグ 年間観客動員数の推移

▶ Bリーグが証明したこと
創設8年でBリーグは観客動員数を約60%以上伸ばし、年間400万人規模のマーケットに成長した(コロナ前比較)。この成長の背景にあるのは「競技成績に依存しない収益多角化」だ。試合に負けても、アリーナ体験の価値が高ければファンは来る——これは他の消費財・サービス業でも通じる、体験価値設計の本質を教えてくれる。

06|Bリーグプレミアが示す「持続可能な経営」の評価軸

2026-27シーズンから始まる「B.LEAGUE PREMIER(Bリーグプレミア)」は、スポーツ界における経営評価の革命だ。昇格・参入の主な条件は「勝率」ではない。

評価軸基準(概要)経営的意味
アリーナ収容5,000人以上・専用または優先使用・設備基準固定費への投資コミットメント。インフラ投資力の証明
観客動員平均4,000人以上(B1 PREMIER)市場規模の担保。需要が存在する市場での経営
クラブ売上12億円以上(B1 PREMIER 目安)事業基盤の成熟度。規模の経済が働く水準の確認
財務健全性債務超過なし・監査法人による監査ガバナンスと持続可能性の担保。財務ディスクロージャー
地域貢献地域活動・育成・ホームタウン活動実績ESGの社会的側面(S)。地域との共創関係
【表7】Bリーグプレミア 参入・維持基準(主要項目)

ここで重要なのは、プレミア参入基準が「強いクラブを作れ」ではなく「持続可能なクラブを作れ」というメッセージを発している点だ。企業経営も同じだ。一時期の売上・利益の急伸より、5年・10年にわたって黒字を維持し、顧客に価値を届け続けられる「継続できる仕組み」のほうがはるかに重要だ。

07|名古屋ダイヤモンドドルフィンズの可能性——商圏ポテンシャル分析

個人的に最も注目しているのが名古屋ダイヤモンドドルフィンズだ。今シーズンは15試合を現地観戦した。その理由は「ファン心理」だけではない。

名古屋市人口約233万人国内第3位の政令市
中京圏都市圏人口約930万人東京・大阪に次ぐ第3経済圏
県内製造業生産額全国1位(愛知県)トヨタグループ等の法人スポンサー層が厚い
IGアリーナ収容人数約10,000人Bリーグ最高水準の常設アリーナ
1人あたり県民所得全国上位(愛知県)可処分所得が高く、チケット・グッズ購買力が強い
【表8】名古屋ダイヤモンドドルフィンズの商圏優位性

IGアリーナは2023年に竣工した日本屈指の新アリーナだ。これに名古屋という巨大商圏、トヨタをはじめとする世界的企業群、高い県民所得水準が組み合わさると——ドルフィンズにはまだ大きな「未使用の経営ポテンシャル」が残っていることがわかる。あえて言えば「これまでが小さすぎた」のかもしれない。

08|スポーツ経営と企業経営——驚くほど似ている構造

試合を見ていると、私はいつも自社のことを考えている。対応関係を整理すると、スポーツチームと企業は驚くほどアナロジカルだ。

スポーツチーム企業経営本質的な役割
チケット(商品)製品・サービス顧客に価値を届ける手段
ファン顧客・リピーターロイヤルティが収益の根幹
スポンサー企業BtoB取引先・パートナー事業を支える外部リソース
選手社員・専門人材価値を生み出す人的資本
監督経営幹部・執行役員戦術的意思決定者
GM(ゼネラルマネジャー)事業責任者・COO組織設計と資源配分
アリーナ・スタジアム店舗・ファクトリー体験価値を生む物理空間
放映権・メディア露出マーケティング・PR認知と需要を生む情報発信
勝利・チャンピオンシップ売上成長・市場シェア拡大競争における成果の指標
クラブ理念・アイデンティティミッション・パーパス長期的な行動の根拠
【表9】スポーツチーム ⇔ 企業経営の対応関係

そして最終的に、どちらも行き着く問いは同じだ。
「人に選ばれるかどうか」。ファンに選ばれなければチームは存続できない。
顧客に選ばれなければ企業は生き残れない。

09|弊社が学ぶスポーツ経営の本質

株式会社ナカムラは飴を企画している。しかし本当に作っているのは飴ではない。思い出であり、コミュニケーションであり、感情だ。プロスポーツチームと一緒に仕事をしてきて気づくのは、この「感情を商品にする」という本質において、私たちとスポーツチームは同じ地平に立っているということだ。

おわりに——3つのリーグが教えてくれること

リーグ経営上の強み課題・学び企業経営への応用
NPB
(成熟期)
習慣化・世代継承による超長期LTV。圧倒的ブランド資産デジタル転換・若年層獲得の遅れ。イノベーションのジレンマ既存顧客のLTV最大化と、次世代への「習慣」の移植が最重要施策
Jリーグ
(成長期)
地域密着モデル。地域No.1を取れる市場設計理念優先で経営の合理化が後回しになりやすい。施設老朽化理念と収益は二項対立ではなく両立させるもの。理念が利益を生む仕組みを設計する
Bリーグ
(挑戦期)
経営ファースト設計。体験価値による収益多様化歴史・文化の蓄積が浅い。強豪との競技力格差「持続できる仕組み」を最初から設計することの重要性。経営(仕組み)を先に強くする
【表10】NPB・Jリーグ・Bリーグから得られる経営の学び

勝敗に一喜一憂するのは楽しい。しかし経営者としては、その裏側で繰り広げられている「どうやって人を集めるか」「どうやってファンを作るか」「どうやって地域に愛されるか」という試行錯誤のほうに目が向く。そしてその答えは、そのまま私たち自身の経営に当てはまる。

NPBが築いたブランドの厚み。Jリーグが生み出した地域との絆。Bリーグが挑む新しい経営モデル。それぞれに深い学びがある。だから私はこれからも試合を見に行く——ファンとして、スポンサーとして、そして何より、一人の経営者として。スポーツは面白い。しかしその勝敗の裏側にある「経営」のほうが、もっと面白いのである。

※ 掲載データは各リーグ公式発表・報道資料等をもとに作成。一部推計を含みます。